KNOWLEDGE BASE

赤外線建物外壁診断とは

見えない壁の内側を、熱で見る。
赤外線サーモグラフィによる外壁診断の仕組みをわかりやすく解説します。

原理・仕組み 検出できる不具合 法的背景 打診との比較 調査条件
01

赤外線診断の原理・仕組み

赤外線サーモグラフィは、物体が放射する赤外線(熱エネルギー)を映像化する技術です。人間の目には見えない「温度の差」を色の違いとして可視化することで、壁の表面だけでなく内部の異常を非破壊で検出できます。

☀️

① 日射による加熱

太陽光が建物外壁を照射し、表面温度が上昇します。正常な壁は均一に温まりますが、内部に空隙(浮き)水分がある箇所は熱の伝わり方が変化します。

🌡️

② 温度差の発生

空隙部分は断熱効果で表面温度が高くなり(高温異常)、水分を含む箇所は蒸発潜熱の影響で表面温度が低くなります(低温異常)。この温度差は0.1〜数℃程度です。

📷

③ 赤外線カメラで撮影

高感度な赤外線カメラ(FLIR T860:精度±1℃)で壁面を撮影。わずかな温度差を熱画像(サーモグラム)として記録し、異常箇所を色の違いで判別します。

🔍

④ 解析・診断

専用ソフトウェアで温度分布を詳細解析。異常箇所の位置・面積・重症度を特定し、浮き・漏水・ひび割れ等の種別を診断します。

💡

なぜ「打診」より確実に広範囲を検査できるのか

打診調査は調査員がハンマーで壁をたたき音の変化で判断します。1㎡あたり数十秒かかるうえ、到達できる場所が限られます。赤外線診断は一度の撮影で数十㎡を瞬時に記録でき、足場なしに壁全面をカバーできます。

02

検出できる不具合の種類

赤外線外壁診断で発見できる主な不具合を紹介します。いずれも目視だけでは見落としやすく、放置すると建物の安全性・耐久性に重大な影響を及ぼします。

01 危険度:高

タイル浮き・剥落

熱画像の特徴 高温部(明るく表示)

外壁タイルと下地モルタルの間に生じた空隙(浮き)は、断熱層となり表面温度が上昇。熱画像では周囲より明るい(高温)斑点として現れます。浮きが進行するとタイルが剥落し、歩行者への落下事故につながります。

放置リスク:タイル落下→人身事故・賠償責任
02 危険度:高

漏水・雨漏り(水分浸入)

熱画像の特徴 低温部(暗く表示)

雨水が外壁の亀裂や目地から浸入すると、水分の蒸発潜熱により浸水部の表面温度が低下します。熱画像では周囲より暗い(低温)領域として検出。内部躯体の腐食・カビへと発展する前に早期発見が可能です。

放置リスク:躯体腐食→構造耐力低下・修繕費の大幅増大
03 危険度:中

ひび割れ(クラック)

熱画像の特徴 線状の温度差

外壁面のひび割れは、割れ目を境に温度勾配が生じます。特に水分を含んだクラックは低温の線状パターンとして現れるため、目視では確認困難な微細なクラックも検出できます。進行性クラックは漏水・構造破壊の前兆です。

放置リスク:漏水の入口となり被害が拡大
04 危険度:低〜中

断熱不良・熱橋(ヒートブリッジ)

熱画像の特徴 局所高温部

断熱材の施工不良や欠損箇所は、熱橋(ヒートブリッジ)を形成し室内外の熱移動が集中します。熱画像では局所的な高温帯として現れ、エネルギー損失の把握や結露リスクの評価にも役立ちます。

放置リスク:光熱費増大・結露によるカビ発生

検出限界について

赤外線診断は非常に有効な手法ですが、壁面全てを赤外線のみで判断するものではありません。適切な日射量・外気温差(5℃以上推奨)がない条件下では温度差が生じにくく、検出精度が下がります。D-Researchでは調査条件を事前に評価し、打診調査・目視と組み合わせることで診断精度を最大化します。

🪞

反射率の高い外壁仕上げ材

光沢タイル・金属パネル・ガラス系外装材など反射率の高い仕上げ材が使用されている場合、外壁自体が蓄熱した温度ではなく、周囲の建物・空・太陽光などを反射した温度を赤外線カメラが捉えてしまいます。その結果、浮きや漏水由来の温度差が反射ノイズに埋もれ、正確な診断が困難になる場合があります

※ 事前に仕上げ材の種類・放射率をご確認いただき、診断可否を判断します。反射率が著しく高い場合は、調査をお断りさせていただくことがあります。
🏗️

撮影角度内の遮蔽物

赤外線カメラによる外壁診断では、精度確保のために壁面に対して概ね30〜45°以内の撮影角度を確保する必要があります(国交省ガイドライン準拠)。隣接建物・樹木・電柱・看板などの遮蔽物が撮影角度内に存在し、カメラ位置を変えても回避できない場合は、対象壁面の一部または全体の撮影が困難となり、診断精度が著しく低下する可能性があります

※ 事前調査(現地確認または図面・衛星写真の確認)により撮影可否を判断します。回避不能な遮蔽が広範囲に及ぶ場合は、調査をお断りさせていただくことがあります。

ドローン利用の限界について

ドローンは外壁調査の強力な補助手段ですが、都市部の密集した敷地環境ではすべての壁面をドローンで撮影できるとは限りません。物理的に飛行が可能であっても、安全性・法規制・精度確保の観点から、実質的に飛行が困難となるケースがあります。

ドローン飛行想定図のイメージ(都市部密集敷地の例)
道路 隣接建物 敷地境界 調査対象建物 撮影距離(理想10m以上) GNSS信号弱
📏

撮影距離の確保が困難な場合

赤外線カメラの精度、画角を確保するには、壁面から概ね10m以上の撮影距離が理想とされています。しかし都市部の密集した敷地では、隣接建物との距離が狭く、ドローン・カメラともに5m前後しか離れられないケースがあります。この場合、撮影角度が急峻になり熱画像の歪みや温度精度の低下を招き、診断精度が低下する可能性があります

※ 事前に建物周囲の空間と隣棟間距離を確認し、必要な撮影距離が確保できるかを判断します。
🛰️

建物間飛行によるGNSS信号喪失リスク

隣接建物との狭い空間をドローンで飛行する場合、周囲の建物がGNSS(GPS)信号を遮断し、測位精度が著しく低下または信号喪失に陥る可能性があります。この状態では自動ホバリングが困難となり、手動操縦に切り替わります。突風や気流の乱れも重なると、機体の制御が困難となり墜落・衝突事故のリスクが高まります

※ 狭小空間での飛行が必要な場合は安全確保を最優先とし、飛行をお断りさせていただくことがあります。
⚖️

隣地上空飛行と土地所有者の承諾

ドローンが隣接する敷地の上空を通過する場合、民法上の土地所有権(上空を含む)の侵害にあたる可能性があります。また、飛行中の機体落下により隣地の財物や人身に損害を与えた場合、損害賠償責任が生じます。このため、隣地上空を飛行する際は原則として隣地所有者・管理者の承諾が必要です。承諾が得られない場合、その壁面のドローン撮影は実施できません。

※ 隣地飛行が必要な壁面については、事前に承諾取得の可否を確認します。承諾が困難な場合は地上からの撮影に切り替えます。
🚫

飛行制限区域・許可申請が必要なケース

航空法により、DID(人口集中地区)内での飛行は国土交通省への事前申請が必要です。また空港周辺・150m以上の高度・夜間飛行・目視外飛行なども許可・承認が必要です。申請が受理されない場合や飛行条件が満たせない場合は、ドローンによる調査を実施できません。なお、申請手続きはDIPS(ドローン情報基盤システム)を通じて行います。

※ D-Researchでは事前に飛行エリアの規制状況を確認し、必要な申請を適切に行います。申請が不可能な場合は代替手段をご提案します。
04

赤外線診断 vs 打診調査

外壁調査の代表的な2つの手法を詳しく比較します。それぞれに特性があり、建物の規模・状況に応じた選択が重要です。

比較項目 打診調査
従来工法
赤外線診断
D-Research
足場設置 必要(全面足場) 不要
💰 足場費用(目安) 700〜1,000円/㎡ ¥0
調査期間 数日〜数週間 最短1日
調査範囲 足場設置範囲のみ 壁面全体を網羅的に
高所・屋根調査 危険・困難 ドローンで安全に対応
微細クラック検出 目視が中心(見落としリスク) 温度差で客観的に検出
調査中の騒音 打音あり(居住者への影響) ほぼ無音
業務中断 施設運営に影響あり ほとんど影響なし
記録方法 手書き・スケッチが中心 熱画像データで客観記録
経年変化の比較 困難 データ比較で進行状況を追跡可能
法的有効性 ○(国交省ガイドライン認定)

打診調査が必要なケース

赤外線診断は非常に優れた手法ですが、完全代替ではなく補完関係にあります。以下のような場合は打診調査との併用を推奨します。

  • 赤外線で異常が検出された箇所の詳細確認(確証を取る)
  • 北面など日射が当たらず温度差が生じにくい壁面
  • 凹凸が大きい石張り・特殊仕上げ材の壁面
  • 法定検査で「全面打診」が明示指定されている部位

D-Researchでは状況に応じて最適な調査手法をご提案します。

05

赤外線調査の適切な条件

赤外線診断の精度は調査条件に大きく左右されます。適切な条件を満たした日に調査を行うことで、高精度な診断が可能になります。

🕐

調査時刻

推奨

日射で壁面が十分加熱された後、午前10時〜午後3時頃が最適。壁面方位によって最適時刻が異なります(南面は午後、東面は午前など)。

NG

日の出直後・日没後・夜間は壁面の温度差が小さく、診断精度が低下します。

☀️

天候・日射条件

推奨

快晴〜薄曇りで、日射量が安定している日。外気温と壁面温度の差が5℃以上あることが望ましい。

NG

降雨直後・強風時・厚曇り・降雨中は精度が低下します。雨の場合は日程を変更します。

🌿

調査に適した季節

推奨

春(4〜5月)・秋(10〜11月)が最適。日射量と気温差のバランスが良く、温度差が生じやすい条件が揃います。

注意

真夏(7〜8月)は気温が高すぎて壁面との温度差が小さく、冬季は日射量が不十分になる日も。条件に合わせて調整します。

💨

風速・環境条件

推奨

風速5m/s以下が理想。風が少ない日は壁面の熱が冷やされにくく、温度分布が安定します。

NG

強風時(10m/s以上)は壁面が急冷され温度差が生じにくくなります。ドローン飛行の安全面でも中止基準となります。

D-Researchの調査前チェックフロー

  1. 1
    建物情報の事前収集

    壁面方位・仕上げ材・建物規模を確認し、最適な調査計画を立案

  2. 2
    気象予報の確認(直前72時間)

    日射量・気温・風速・降水確率を確認。基準を下回る場合は日程変更を提案

  3. 3
    当日の現地確認

    壁面温度・外気温・日射量を計測して調査実施の可否を最終判断

  4. 4
    壁面方位別に撮影タイミングを調整

    南面・北面・東面・西面でそれぞれ最適な撮影時刻に調査を実施

06

調査報告書の内容

調査結果はわかりやすい診断レポートにまとめてご提出します。修繕計画の基礎資料として活用いただけます。

📊

建物概要・調査概要

  • 建物名称・所在地・構造・階数・築年数
  • 調査実施日・気象条件(気温・日射量・風速)
  • 使用機器・調査担当者(資格・氏名)
  • 調査範囲(壁面の方位・面積)
🗺️

異常部位マップ

  • 立面図上に異常箇所を色分けでプロット
  • 浮き・漏水・クラック等の種別を区別表示
  • 各異常部位の推定面積・座標を記載
  • 優先度ランク(緊急・要経過観察・軽微)の付与
🌡️

熱画像・可視画像の対比

  • 可視画像(通常写真)と熱画像を並べて掲載
  • 温度スケール・測定ポイントの温度値を明記
  • 異常箇所を矢印・枠で明示
  • 撮影方向・撮影距離・レンズ情報を記録
🔧

診断結果・対策提言

  • 各異常の原因推定(浮き・漏水・クラック等)
  • 修繕優先度のランク付けと推奨時期
  • 修繕工法の選択肢(部分補修・全面打替え等)
  • 一級建築士による所見・総合評価
📁

法定報告書への対応

建築基準法第12条に基づく定期調査報告が必要な建物については、特定行政庁提出用の所定様式に準じた報告書を作成します。一級建築士が報告書に署名・捺印することで、行政提出書類としての有効性を確保します。

07

よくあるご質問

多くのケースで対応可能です。国土交通省ガイドラインにより、赤外線調査は打診調査の代替手法として認められています。ただし、建物の立地・壁面形状・特定行政庁の指定によって全面打診が必要な部位がある場合は、打診調査を組み合わせてご対応します。事前に管轄の特定行政庁への確認をお勧めします。

基本的に不要です。赤外線カメラでの外壁撮影は建物外側からの非接触調査のため、居住者・利用者に影響はほとんどありません。ドローンを使用する場合も、飛行エリアの安全確認を行いながら実施します。ただし調査当日はドローン飛行経路付近への一時的な立ち入り制限をお願いする場合があります。

建物の規模・形状・調査範囲によって異なります。足場仮設費用がゼロになるため、従来の打診調査(足場込み)と比較して大幅なコスト削減が期待できます。目安の費用はお問い合わせいただいた後、建物情報をもとに無料でお見積りします。

降雨中・降雨直後・厚曇りの日は調査精度が著しく低下するため、原則として調査を行いません。天候が調査基準を下回る場合は日程を変更してご対応します。なお、調査前日の降雨については、壁面の乾燥状態を確認した上で判断します。

はい、管理組合・管理会社・建物オーナー様からのご依頼を承っております。定期総会の資料として活用できる診断レポートの作成や、修繕積立計画の基礎資料としての活用もサポートします。複数棟・大規模修繕前調査の実績もございますので、お気軽にご相談ください。

はい。ドローンは補助的な機材であり、基本調査は地上からの赤外線カメラ撮影が主体です。DID(人口集中地区)・飛行禁止区域・飛行困難な場所でも、地上からの赤外線カメラ調査で対応可能です。ドローン飛行が必要な場合は、事前に国土交通省DIPSへの申請・許可取得を行います。

まずは無料でご相談・お見積もり

建物の規模・状況に応じた最適な調査プランをご提案します。
お気軽にお問い合わせください。

TERS TERS正規会員|一級建築士が全工程を担当